ツラの皮
「オイッ!逃げんな、鈴っ!」
慌てて追っかけてみたがヤツは廊下を全力疾走で消えた。
くそっ、逃げられた。
つか、逃がすかよ。
一旦は脱力したものの直ぐに建て直し、鍵を手に入口に舞い戻る。
手荒く鍵をかけていると背中に嫌味ったらしい声が掛けられた。
「へぇ。何かケイベツ。清水さんって仕事には真摯で仕事仲間には手を出さないって聞いて少なからず尊敬してたんですけど。」
嘘つけ。
てか、誰の所為で逃げられたと思ってんだ。謝罪しろ。
の、前に、オマエはどーいうつもりで鈴の部屋にノコノコ来てんだよっ。
言いたいことは山ほどあったが、一先ず後だ。
「るせぇ!恋人とどこで何しようがお前にとやかく言われる筋合いねーんだよっ。」
この場合、このくらいの見栄は許されるだろう。
一方的に罵声を浴びせて、呆気に取られて立ち尽くすトールを置き去りに鈴を探しに走り出した。