ツラの皮
「さあて。彼女ほどの適役は他に思いつかないな。」
その答えに一瞬取り繕えず表情を崩した俺を見て、監督はニヤリ、と珍しく人を食ったような笑みを口に浮かべた。
「清水くんや。私はあくまで映画監督で、ドキュメンタリィー監督じゃあない。作品にいかに現実味を求めようとも、撮りたいのはあくまでフィクションなのだよ。だとしたら私の主役は最高の『役者』でなくてはならない。だろう?」
俺は瞠目し、にわかに己の厚顔無恥を後悔し「スミマセン」と謝った。
それに監督は朗らかに笑った。
「幾ら君が魅力的な男でも君や………鈴ちゃんには私の作品の役者は任せられんよ。そうさなぁ、私がドキュメンタリーを撮る機会があったら是が非でもオファーを取り付けるもんだが。」
言外に昨日のやり取りを匂わせてくくっと笑う監督に俺は赤くなった顔を伏せて
「本気で謝るので勘弁シテクダサイ。」
と泣きを入れた。