ツラの皮
尾瀬監督と別れて散策道を進む間、俺が思い出したのは数年前に発売された化粧品のイメージポスターだった。
黒いビロードに包まれた小悪魔仕様のドール。
陰惨にも艶やかにも見える無表情が圧巻の―――
清純可憐を売りにしている雪乃にしては珍しい一枚。
コレには裏話があって、打合せでは白を基調とした天使のカットをカメラマンの勝手な意向で小悪魔になったとか。
勿論、天使の写真も撮影し、悪魔ドールはカメラマンの所属する上司の逆鱗に触れお蔵入りになるところだったが、クライアントの目に留まりエラク気にいられてポスターに起用されることになったらしい。
天使の写真も仕事としては上等のものだったらしいが、悪魔ドールには及ばなかったのだ。
その写真に俺は言いえない衝撃を受けた。
それから暫く経って、そのカメラマンと一緒にする機会を得た俺は尋ねた。
どうして雪乃をあんなふうに撮ろうと思ったのか。
多分、誰も雪乃をあんなふうに観る者はいなかった。