ツラの皮
目深に被ったハンチング帽と伊達眼鏡。
横で無造作に纏めた髪。
“彼女”にしては些か地味目のカジュアルな服。
「…………雪乃。」
「え?雪乃さん!?」
隣で状況について行けずぽかんとしていた鈴が俺の言葉に驚いたように目を丸くした。
俺は俺にしがみ付く女を冷静に引き剥がした。
「…あ。……いきなりゴメン、ね。グウゼン知り合いに会えて、ほっとして思わず…。」
雪乃は微笑を俯けて、ぽつぽつ言った。
仕事が終わって帰る途中。
今日はマネージャーが仕事の打ち合わせでまだ掴まっていて送れないと言う事で一人でタクシーを使って帰ろうと、ここまで歩いてきたらしいが。
誰かに付けられている気配がして―――
「ストーカーっていうのか、熱狂的なファンっていうのかな……最近多くて。」
それで怖くなっちゃって…
そう言って雪乃は困ったように微笑した。