ツラの皮
上役はいきり立つ俺から一度視線を外し、「難しいことだな。」と平板に言い放った。
「この手の話題は、コッチが躍起に否定したトコロで逆に面白おかしく煽りたてられるのが常だ。そんなコトは君だって、この世界にいて嫌という程見てるだろう。慌てず騒がず時が過ぎるのを待つのが一番の得策だろうよ。」
「…そうですけどっ。でも……!!」
「―――それに」
俺の言葉を遮って、上役が続けた。
「偶然とはいえ、尾瀬監督もこのスキャンダルを否定しまい。」
「……っ。」
自分の作品に対して真摯な尾瀬監督だから、こんなチンケな話題作りにあえて賛同を示すとは思えないが―――。
映画のあらすじは、若い頃、密かに思いを寄せあう男女が、戦後の混乱で離ればなれになり、時を経て別の場所で偶然再会―――愛を取り戻すと言ったラブロマンスで。
無論、単なるラブロマンスだけではなく、その時代背景や人間のしがらみなど様々な要因が大きく絡んでくるモノだが。
時代や背景は違えども、俺と雪乃の関係は『見るだけのヤツ等』にしたら、映画との関連性を持たせ、興味を抱かせるにうってつけの小道具だ。