ツラの皮
その後の会話で挽回の余地もなく、夫人はトモダチとの待ち合わせの為に去って行った。
残された私と麻生さん。
「あ、あのね、これには深いワケが……ぎゃーっ!!!!」
無言で携帯を取り出した麻生さんに慌てて飛びかかる。
「ちょっ、待って!!!!ホントにワケがあるんだから―――」
「その言い訳は僕じゃなくて、他にすべき相手がいるんじゃないの?」
にべもなくそう言って麻生さんは通話ボタンを押した。
電話を奪おうと飛びつく私の耳に、呼び出し音が途絶え声が聞こえてきた。
途切れ途切れだが電話口では『オマエ、どこで何やってんだ。早く帰って来い。』というようなセリフが聞こえる。
当然聞き覚えのある声。
「ああ。ごめんごめん。今ね、ブチョーのお母様に会ってね。グウゼン一緒に居合わせた彼の婚約者とやらを紹介されたんだよ。今、隣にいるんだけど―――小早川鈴さん。」
『――――――は?』
理解出来ないという声を最後に静まり返った携帯。
不穏な空気が心臓に物凄い負担。
麻生さんが「代われって。」と携帯を差しだしてきた。