ツラの皮



敵は周囲まで巻き込んで鈴を手中に収めようとするヤツだ。

なまじな予防線なんて意味がない。

だったらいっそ、諸々のコトは後回しにしたとして先手必勝で籍を押さえとくか。

そうすればヤツがいくらフィアンセだと騒いだとしても結婚はできまい。


このくらいの先手を打たなきゃ気が気じゃねぇ。

―――けど。



「んな逃げみたいな手段のために、俺はオマエとの結婚を使いたくねぇんだよ。」



吐き捨てるように言った途端、腕の中で暴れていた鈴がピタリと動きを止めた。




「え?」


「え?じゃねぇよ。ちゃんと聞いとけよなっ。」




俺は結婚するなら、タチバナや鈴のオカンにちゃんと認められて、ちゃんと段階踏んで、鈴にも幸せを感じてもらいたい。


少なくとも、部長に対抗するためなんつーズレタ理由でプロポーズなんかしたくねぇんだよ。


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