ツラの皮


「それにしてもオメデトウ。社長も気を揉んでいたらしいが、コレで一安心ってものだな。式には是非呼んでくれたまえよ。」



…はい?


「ええ。是非。」


ふっ、といつになく爽やかに微笑み返す部長。


って、おい。こら、待て!!


私の怪訝な顔に気付いたオッサンがシマッタというようにおどけた様子でテカッた額を叩く。



「これはシマッタ。婚約発表は本日のサプライズで緘口令が敷かれてるんだったな。でも大丈夫。私はとある情報筋から聞き及んだだけで、会場の誰も知らないからね。みんなびっくりする事間違いナシだ。」



いや、私もびっくりダ。





「どーいうことですか?」



呵々大笑しオッサンが去って行った後、引くつく笑顔で部長を睨んだ。

部長はしらっと嘯いた。



「言っただろう。“彼女”と呼ぶのは今日限りだと。このパーティーで正式に発表したらオマエは晴れて俺の“婚約者”だ。」



……………なんですってぇぇぇ!?


ヤバいッ嵌められた!!…なんて喚いている場合じゃなく、私は即行身を翻して駆けだした。



「おい、待て!」




背後で部長が呼びとめる声が聞こえたけれど、それで待つバカ居るワケナイでしょ!?


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