ツラの皮
雪乃の家は結構金持ちで所謂オジョウサマだ。
上に兄貴が二人いて、末娘は可愛がられて不自由もなく生活していた。
学校でも家でも雪乃は愛らしく賢くおしとやかな令嬢。
周囲がそれと望む人物像を雪乃は読みとって、その通りに振る舞った結果だ。
芸能界入りした後も、雪乃は周囲の望む人物像を演じ、更には役者として色々な役を演じ続けた。
「騙してるわけじゃないけど。みんなの望む通りに演技してれば、みんなそれで納得するんだから。それって悪いことじゃないと思うなぁ。」
俺と昔付き合ったのも、イイ歳頃になり『彼女』という役を演じてみたかったから。
丁度その頃オファーがくる役どころが恋愛モノが多くなって、“彼女”を知るために彼女になってみたかったのだと。
俺を振って役者としての未来を取ったのも、その当時はまだ『役者として上にあがる時』だったから。周囲もそれを望んでいたし。…って。
……まるで悪びれない。
雪乃の答えは実にシンプル。
呆れるほど無邪気で、自己中。
そして現在、目的を成し遂げた雪乃は、『女優』から『ただの菅原雪乃』に戻ろうとして、自分が分からなくて困っているのだと言った。
彼女に『ただの菅原雪乃』という役を与える者がいないから。