ツラの皮
「高遠が必要なの。高遠なら私に『菅原雪乃』の役を与えてくれるでしょ?」
「……悪ぃ。俺には無理だ。」
腕に縋りつく雪乃を引き剥がして謝った。
「オマエの『彼女』の演技を鵜呑みにして、それを本当のオマエだと思い込んでたような俺に『菅原雪乃』は与えてやれない。俺は…本当の雪乃を知らない。」
今思えば…
俺は雪乃の何一つ、見えてなかったんだ。
俺が見詰めて愛していたのは、雪乃の演じる『彼女』だ。
“彼女”が演技だったというのなら、俺は何一つ雪乃を知らない。
いや、雪乃の言うとおり雪乃の全ては演技で出来ていて、実態なんてどこにもないのかもしれないが…。
「そうなんだ」と些か拍子抜けしたように呟いた雪乃は徐にニコリと微笑んだ。
「だったら、これから高遠が『雪乃』を作ってくれればいいのよ。一杯『雪乃らしい』って言って、高遠が『菅原雪乃』の役を作って、私に与えて。」
変なトコロでポジティブで困る。
図太いのは何となく分かってたケド…って、こんな事言ったらまた雪乃のへんな思い込みに拍車をかけるだけだと分かってるから口にはしねぇが…。
「俺は監督でも作家でもねぇよ。」
その時、撮影の延長でマナーモードにしていた携帯がポケットで震えた。