ツラの皮



部長にそれだけ言った高遠は隣の雪乃さんに視線を向けた。



「というワケでここからはオマエに掛かってる。逃げられないようにコイツの望む『菅原雪乃』を命一杯に演じてやれよ。幸せにな。」



雪乃さんはするりと部長の腕に腕を絡ませ、にこりと微笑んだ。



「うん。私『幸せな妻の菅原雪乃』でいるわ。」



照れを滲ませてつつ本当に幸せそうにはにかむ雪乃さんはまるで本当に長年ヒミツの恋を育んで、ようやく公に出来た恋人のよう。


……とても今が初対面の即席彼女とは思えない。



「でも、私の婚約者の名前ぐらい教えておいてもらいたかったな。」



…名前すら知らないんだ……。


晴れの婚約発表に遅れてきた友人を窘めるみたいに高遠に文句を言う雪乃さんに私はただひたすらに唖然とした。


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