SSS
教室に戻ると雨宮さんが話しかけてきた。雨宮さんというのは僕の隣の席の女子で、飛河さんとはまた違うタイプだ。
全体的にふんわりと淡い印象がある。髪は栗色でゆるいウェーブを描いていて、眠たげな二重まぶたを柔らかそうなまつげが縁取っている。桜の花びらを落としたような唇は、触れたらはらりと剥がれてしまいそうで、なんとなく色っぽい。身体つきも飛河さんとは違い女の子女の子していて、話しかけられるとなんとなくどきりとしてしまう。学年で1番異性に人気があるのは、多分雨宮さんだ。
「永星くん、遅かったね。水穂(ミズホ)、出席番号が早いから、さぼれないの。うらやましいなあ。翼ちゃんと帰ってきたけど、もしかして、付き合ってたりするの?」
自分の事を名前で読んでいいのは可愛い女子だけだけど、雨宮さんは充分可愛い。
「そんなわけ無いだろ。階段のところでばったり会ったんだよ。」
「そう?」
「うん。」
飛河さんの色恋沙汰なんて聞いた事がない。というよりも、恋愛よりもなんだか他の事に興味がありそうだ。
先生が号令をかける。
最後の時間が自習というのはなんとなく好きだ。そのまま帰りのホームルームができるから。窓の外はまだ日が高い。今日は直哉(ナオヤ)でも誘って遊ぼうか。