3月9日
桐谷はケータイをテーブルに置くと、ベッドにもぐり込んだ。

「…では、私はこれで失礼します。どうぞ残りの人生を有意義に、お過ごし下さい…」

「何だと?!お前が連れて行くんじゃないのか?!」

桐谷はガバッっと、ベッドから起き上がると叫んだ。

「ええ…私は、お迎え担当ではないので…担当の死神は、時間になったら来ますので〜じゃ、私はこれで…!」

と言って、死神は部屋の窓を乗り越えると、出て行ってしまった。

「おい?!ちょっと待て、ここは2階だぞ?!」

あわててベッドから出て窓の外をのぞくと、死神の姿はどこにもなかった…

「何だよぉ…一人にするなよぉ…」

不安そうに呟きながら、ベッドに戻ると布団をかぶった。


熱で頭が割れるように痛くなってきた…

時計の音が、やけに大きく聞こえてくる…

死の恐怖がジリジリと、胸に押し寄せてきて…

そして…かけ時計の針が、静かに10:00を指した。
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