たとえ愛なんてなかったとしても
「本当にひさしぶり、だよね。
兄さんが日本で歌手になってたなんて思わなかったから、びっくりしたよ。

アジアのことはあまり詳しくなくて、最近まで知らなかったから......」



和食屋で適当に定食を頼んだ後に、俺を気遣いながら慎重に言葉を選ぶように話すトニー。


芸能人になったかと思えば、裁判沙汰。
しかも自分と無関係とは言えない事情で驚いただろうな。



「......人生何があるか分からないな。
お前の方こそ、上海でデビューするんだろ?」


「うん、なんか上海事務所の人にスカウトされて......。
ハイスクール卒業したら本格的に活動始めることになってる」



アメリカで歌のコンクールで入賞経験もあるトニーは、今回の件で注目を浴びてスカウトされ、近々上海でマルチタレントとしてデビュー予定、とテレビでは報道されていた。


俺から見ても、上海事務所がこいつに目をつけるのも、もっともだ。


見た目アジア人の俺とは違い、トニーは正真正銘のハーフ。

いかにも西洋系ではなく、ハーフタレントはなんとなくアジアっぽさもあり、身近な親しみやすい魅力があるみたいだ。

英語も中国語も話せて、言語面でも有利で。


さらに今回の件で話題性もある。
マイナスでもプラスでも、話題性があるということは新人を売り出しやすいんだろう。
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