たとえ愛なんてなかったとしても
「そうか、だったらなおさら、何でステージに上がらなかった?

今日のライブの様子は報道されるだろうし、名前を売るチャンスだったろ」


「事務所の人にもそう言われたけど、兄さんを利用するみたいでイヤだよ。
今回のことで一番傷ついてるのは兄さんなのに......みんなヒドイ。

こうして個人的に話せるだけで、僕は十分だから」


「何を甘いこと言ってるんだよ。
実の家族でさえ利用しなきゃ、この世界はやっていけないんだ。

この先たとえ俺を貶めることになろうとも、お前は自分のことしか考えなくていい」


「そんなこと、できないよ......。
兄さんを貶めるなんて......」


「それくらいの覚悟もないなら、 芸能界なんてやめておけ。
アメリカで家族と暮らしてた方がいい」



利用するのが嫌......か。
だったら俺は何なんだよ。
この世界に残るために、自分の気持ちにも嘘をつき、家庭の事情さえ利用する選択をした俺は。


きっと、ここはトニーが夢見るような世界じゃない。
そんなにいいものじゃないんだ。


もう俺はここしか居場所がないから、必死にしがみつくしかないが......。

お前はこっちの世界に、......くるな。
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