たとえ愛なんてなかったとしても
三月になり、少しずつ暖かくなってきた頃。


私たちの所属事務所の一年に二回ほどある親睦会が行われた。


そんなにかしこまったものではなく、普段着でいいし、ただ飲んだり食べたりする、食事会のようなもの。


ただ人数的に普通の居酒屋では厳しいから、パーティー会場のようなところを貸し切る。


トイレに行きたくなったので、立食を中断して、一人で狭い廊下を歩いていると話し声が聞こえてきた。


あれは......俊輔、ともう一人の女の子は新人アイドルの......名前は忘れたけど、とにかく新人の子ね。



「あのっ、これ私のアドレスです!
気が向いたらでいいので、連絡頂けると嬉しいです!」


「えっ、あ、はい。

それで、誰に渡せばいい?
エリックさん?それとも英俊?

一応渡すけど、連絡するかどうかは保証できないからね」



ちょっと......、その子は明らかにアナタ狙いでしょ。

どこに顔を赤くして、他の男にアドレス渡してと頼む女がいるのよ。
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