たとえ愛なんてなかったとしても
その日の夜遅く、俊輔が私の部屋にきた。



「どうしたの?」



飲み物は?と聞いてもいらないと言われたので、一人だけ紅茶を準備して、落ち着かない様子の俊輔を横目で見る。



「言われなくても分かってるだろ!?
ああいうの、困るんだよ」


「何のこと?」



聞かなくても分かりきったことではあるけど、素知らぬ顔で紅茶に砂糖を入れる。

スプーンでカップをかき混ぜていると、その手を俊輔に掴まれた。



「朝のエレベーターでのことだよ。
お前本当に何考えてんだ!」


「私が何を考えてるのか、知りたい?」



掴まれた手を自分から引き寄せて、床にあぐらをかいた俊輔の膝の上に乗って、耳元でささやく。



「ちょっ、やめろって......」



俊輔が形の上では抵抗して見せるけれど、その手には力が入っていない。

本気で嫌なら、男のあなたには抵抗することは簡単なはずなのにね?
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