たとえ愛なんてなかったとしても
「......さん?エリックさん!」



イライラしながら自分の世界に入っていたら、何度も司会者に名前を呼ばれているのに全く気付かず、隣にいた英俊にちょっととつつかれて、ようやくハッとした。



「......はい?」


「聞いてなかったでしょう?
本番中ですよ、しっかりしてください。

彼女のことでも考えてたんじゃないの?」



うっかりとトニー以上にまぬけな返事をすれば、本気で怒っているといった様子ではなく、からかうような中年男の司会者。


......一体俺は本番中に何やってるんだ。
これでは、トニーのことをとやかく言えない。

今まで心の中でどう思っていようが、隠すことだけは得意だったはずだったのに。


どうだっていいだろ、トニーのことなんて。
トニーがどうなろうが俺には......。

もしこいつが芸能界から消されたとしても、潰されたとしても、俺には一切関係ないんだから。
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