たとえ愛なんてなかったとしても
「あ、炎彬さん。こんばんは」



エレベーターのところで俊輔に会ったので挨拶する。


それにしても......部屋の中は暖房が効いていてちょうど良かったのに、さすがに夜に長袖Tシャツ一枚は寒い。


軽く身震いするくらいだが、俊輔に会った手前、今さら部屋に引き返すのも格好悪いので、我慢して一階のボタンを押した。



「あの......、11月にTシャツ一枚って寒くないですか?」


「体を鍛えてるんだ。
仕事では暑かったり、寒かったりだろ?
季節はずれの衣装を着ることもあるし。

だから、急激な温度変化にも慣れておかないといけない。

俺はプロ意識が高いから、温度の変化で体調を崩さないために、日頃から季節はずれの服を着る日を作ってるんだ」


めっきり肌寒くなって、特に雨が降って冷える日に。

Tシャツ一枚の俺を不審な目で見る俊輔を納得させようと、もっともらしい言葉を探す。
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