たとえ愛なんてなかったとしても
収録前の残り少ない時間、他にもやるべきことはたくさんあるにも関わらず、誰もいないトイレで、ただ鏡の中の自分を見つめる。   


情けない顔だ......。
公の場では化粧でごまかしているものの、ファンデーションを落とせば、睡眠不足でくまもひどく、肌は荒れている。

収録前の今はしっかりとメイクでごまかしてもらったはずなのに、それでも鏡の中には疲れきった情けない男が映っているように見えた。

まるで、俺の心の弱さを映しているかのように。


数分前のことを思い出し、これで何度目になるかも分からないため息をつく。

楽屋のモニターからあいつの、俺の弟の歌声が流れ、それを聴いて、いてもたってもいられず、楽屋を飛び出してきた。


どうして、あの曲を選んだんだ。
自分の新曲はもちろん歌うみたいだが、もう一つの曲は。

自分の持ち歌でもなく、日本で有名な曲でもなく。わざわざ日本にまできて、なんであんな歌......。

何考えてるんだ、あいつは!


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