たとえ愛なんてなかったとしても
「兄さん、ごめん。本当に大丈夫?」



鏡を見ながら一人でイライラしていると、日本にいるはずなのに、ハキハキとした女の声で中国語が外から聞こえてきた。

だんだん声がはっきりと聞こえてきたので、こちらに近づいてきているようだ。



「うーん......、さっきまでは落ち着いてたけど、また気分悪くなってきた。
収録までには治るといいなぁ」



女の声の次に聞こえてきたのは、発声をはっきりとしなければいけない言語的な問題できつく聞こえがちな中国語を、穏やかでのんびりとした独特の話し方をする男の声。

この声は、ヒョンスか。
確かヒョンスたちも来てるんだったな。


いつものように馴れ馴れしく絡まれるのも面倒だが、今出ていったとしても確実にはちあう。

どうすることもできず仕方なくその場にとどまると、盗み聞きをするつもりはないが、必然的に二人の会話の内容が聞こえてきてしまった。



「やっぱり私のせいだよね?
今朝台湾出る前に、兄さんに渡したおにぎり。
変なものは入れてないのに、どうしてかな」


「......あんまり聞きたくないんだけど、おにぎりに何入れた?」
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