たとえ愛なんてなかったとしても
まるで死期が近いのを悟っているかのように、柔らかく微笑んでいる。


わたしに会うために......。
聞いていて、なんとなく嬉しいような、けれども腹立たしいような気持ちになる。


だってそうでしょう?
どこまで、勝手なの?

勝手に私を作って、勝手に産んで、勝手に捨てて、責任も果たさなかったくせに。

今度は勝手に、私の手の届かない世界に一人で行こうとするの?



「勝手に、満足しないでください。
まだやり残したことがあるでしょう?

私.....、普通の親子みたいなことを、まだ一つもしてもらってません。

退院して元気になったら、今日会ったことを話して、一緒にご飯を食べて、一緒に買い物に行くの。

それでね、......」



目を見れば、震え出した彼女の手を握りしめる。

育ててもらった恩もなければ、自分勝手な人で、やっぱりまだ許せないし、これからだって一生許せないと思う。


それでも、どれだけ勝手でも、ひどい親でも、この人は私のたった一人のお母さんなんだ。


本当に神様がチャンスをくれたのか、ただの夢なのか、そんなことは私には分からない。

けれど、どちらにしても、私に会うために、それだけのために、戻ってきてくれた。

私のことを忘れずにいてくれたんだ。


私の、......お母さん。


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