きのこのうら
奥歯を噛み締めながら、私はやっとのことで口を開いた。
「やめてよ、そんなもの頼むの。私がきのこ嫌いなの知ってんでしょ?」
「ああ、きのこの裏が嫌いなんだっけ。別にそんなのいいじゃない。口に入れれば見えないんだし」
悪びれもせずにエミが言った。
そんな単純な問題じゃないっ。口に入れるときに見ちゃうじゃないか。エミはちゃんと見たことがないんだ。あいつの正体を。
数あるきのこの中でも椎茸のひだは格段に気持ち悪い。大きさに加え、びっしりと隙間なく几帳面にすーっと放射線状に伸びるひだ。ああ! 気持ち悪い!!
ぶるっと肩を震わせて、気を紛らわせようとビールを仰いだ。それから大好きな焼き鳥に齧り付いた。肉うめぇ。しかし焼き鳥を飲み込んだあとに嫌でも感じてしまう椎茸の芳醇な香り。思い出す椎茸の存在。焼き鳥を持つ手に力が入る。
「もう早く食べちゃってそんなもの。匂い嗅ぐだけで思い出しちゃう。あの忌々しいきのこのうら……!!」
「そんなに一気に食べられないわよ。それに、見るのが嫌なら目を瞑って食べればいいだけじゃない」
「むりむりむりむり! 見ちゃうもん絶対!」
「どうしてよ」
少しむっとしてエミが聞く。完全に否定したのが気に入らなかったのだろうか。