きのこのうら



「ひだの表面には子実層っていうのがあって、そこで胞子を作ってんのよ」

私は顔を顰めながらも淀みなく答えた。エミが驚いた顔をする。


「よく知ってんのね。嫌いなのになんで?」

「敵の情報収集みたいなもん」

「敵って……」

エミが苦笑する。

私はあるときどうしても我慢できなくなって、きのこの生態を調べつくしたことがある。あの気持ち悪いひだが何のために存在するのかを知りたかった。あわよくばこの世界からひだの存在を抹消したかった。無理だけど。

その結果わかったのは、ひだにもちゃんとした存在理由があるということ。胞子をより多く作り出すために表面積を増やそうとした結果が、あのひだなのだろうということ。きのこだって、一生懸命なのだ。

一生懸命なのはわかっている。わかっている、が、気持ち悪いものは気持ち悪い。きのこ研究の間に何度気絶しそうになったか。写真で見る様々な種類のきのこのうらはもう言葉では言い表せないほどの衝撃だった。

すぐさまビールをごくりと飲むが記憶は消えない。目を瞑るとありありと浮かぶきのこのうらの姿。細かくひらひらとした筋状のひだ。うにうに、びらびら……。ああもうだめ!


「なんであんなに気持ち悪いのよー!」

「なんでそんな気持ち悪いの頼むんだよー!」

私が心の叫びと共に勢いに任せて置いたビールジョッキのごん、という音にも負けない声の大きさで、お隣のテーブルの男性が叫んだ。何事かと見てみると、お隣に運ばれて来ていたのは椎茸の塩焼き。私は思わず「げ、」という悲鳴を上げた。


< 5 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop