スーズ
生意気な始まり

one

七瀬由里はパソコンの画面を見つめ愕然としていた。月末の社内は比較的穏やかで、由里自身もコーヒーを片手に少し気を抜いて調べていた。
だからか、いつもより顔に出てしまったかもしれない。気付いたら、ベージュの口紅を控えめに引いた口が半開きしていた。

「いるよね、こういうヤツって。」
音楽雑誌の編集部に所属する由里は、来月号で特集する若手天才トランペッターについて調べていた。取材する人を事前に調べることは当たり前で、今回もいつものようにパソコンを操作していた。

音楽界というのは実力主義の世界で、それは私立の音大を卒業した由里には痛いほどわかっている。だから雑誌に特集されるような人の経歴なんて、輝かしいものばかりなのだが、今回は群を抜いていた。


「神谷夏樹…ね。」

画面には、こう書かれていた。

神谷夏樹
21歳
3歳からピアノを始め4歳でジュニアピアノコンクール優勝。それから3年間優勝し続け、8歳のときに世界ジュニアコンクールピアノ部門で準優勝。
その2年後には日本人で初優勝を果たす。
中学生になるとピアノからは離れトランペットを始める。中学2年のときに中学生ソロコンテスト器楽部門で優勝。高校3年のときにトランペットコンクールで音大生やプロを抑え、3位入賞。

芸術大学に主席で入学すると数々のコンクールに出場し優勝している。現在は芸術大学3年生である。



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