スーズ
斉藤は由里の頭から手を離すとすぐにパソコンの方を向く。黒髪が顔にかかり、由里からはもう斉藤の顔は見えなかった。
斉藤の優しさのおかげで、由里の気持ちは幾分良くなったしなによりも仕事後の予定ができた。そのことでテンションが上がっている。
その後、由里はもう一度神谷夏樹の経歴を調べり、部長に音楽祭の了承を得たりした。そうしてるうちに定時はとっくに過ぎてしまっていた。
「七瀬、お疲れさん」
「お疲れ様です」
斉藤と由里は一緒にエレベーターに乗り込んだ。1階のボタンを押すと、扉がしまる。
「ずっとパソコンとにらめっこしてるから俺との約束忘れてんのかと思った。」
「違いますよ。ただ、集中すると周りが見えなくなるので…」
「ホント凄い集中力だよ。」
上司に誉められて由里は嬉しく感じた。少し恥ずかしく感じ、下を見てしまう。
淡いピンク色のヒールが目に入る。由里が今日履いているものだ。
でも、秋らしくないな、と感じていた。今朝だって、ストールは秋らしいのにと違和感を感じていた。
今度、新しい靴を買おう。
由里がひとり買い物の予定をたててると、エレベーターは1階に着き、控えめに知らせてくれた。