スーズ

「いつものところでいい?」

エレベーターのドアを抑えエスコートしながら、斉藤が由里に尋ねた。
それに対して由里は食い気味に二つ返事をした。

「ケンさんのつくるカクテルは美味しいんで、あそこ、私好きです。」

由里が興奮気味に話せば、斉藤は穏やかに微笑んだ。

「そりゃケンも喜ぶよ。」


斉藤が本当に嬉しそうにするのは、ケンと斉藤が幼なじみだからである。ケンが経営するバーは由里の勤務する編集部からは歩いて10分の距離だ。
裏道に入った隠れ家のようなバーで、常連客しか殆ど来ない。カウンター席だけの小さなバーだが、常連客ばかりなのとケンの人柄の良さから非常に落ち着くバーである。
そんな雰囲気に由里は気に入っていて、斉藤に初めて連れて行って貰ってからよく行くようになった。

と言っても、最近は忙しく由里は1ヶ月程行ってなかった。

だから、嫌なことがあった日とは思えないほど、足が軽やかだった。


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