スーズ
約20畳ほどの音楽雑誌担当部はポップス担当とクラシック担当とロック担当の3つがあり、それぞれ曇りガラスで区切られている。
由里はクラシック担当で愛梨もそうだ。14人で月刊誌を2冊販売している。しかしクラシック雑誌というのはあまり売れないもので、人数も少なければ費用も少ない。
領収書管理などの雑用もやりながら雑誌を仕上げていく。月の半ばは忙しくて徹夜なんて当たり前。女だからって特別待遇なんて無い、そんな仕事だ。

だけど由里はそれに生きがいを感じていた。ストイックな性格だからか、休みが少ないこともあまり気にならない。
友人のなかには短大を卒業して事務職をしている子も少なくない。週に2回は合コンして休日は趣味に明け暮れる。28歳という結婚適齢期になり、永久就職を待ち望んでる子ばかりだ。

でも由里はそんな友人達の生活を聞いて羨ましく感じたことなど一度も無かった。むしろ仕事に対してモチベーションが低い彼女達をみて呆れていた。レベルが合わないな、と。
結婚に憧れない訳ではない。むしろ結婚はしたいし子供も欲しい。一般的に言われる『女の幸せ』というものを手に入れたい。しかしそれよりも仕事をしたい気持ちが勝っているし、結婚を考える恋人もいない。忙しくて出会いだって少ない。

それでも、「まあいっか」と流してしまう。結婚を意識し過ぎると彼女たちと同じレベルに下がる気がするのだ。


だからつまり、由里は仕事人間の典型的なタイプである。


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