スーズ
コンコン、と右手中指でドアをノックする。それと同時に演奏が止み神谷夏樹がこちらを見た。
「こんにちは。編集部の七瀬由里です。」
ドアを開け、一礼し神谷夏樹に話しかける。鋭い目つきが特徴的なイケメンだ。デニムに白シャツという爽やかないでたちで、銀色のトランペットを右手に持っている。
「ああ、取材だっけ」
「はい。練習中申し訳ないですが、早速取材をして宜しいですか?」
神谷夏樹の敬語を使わない喋り方に違和感を感じつつも、早く取材をしようと提案する。
『ああ、いいよ』とまたどうせタメ口で返されるだろうと由里は予想していた。
しかし、予想は大きく外れることとなる。
「申し訳ないと思うなら、帰ってくれない?」
「……はい?」
「だから、練習の邪魔だって言ってんの。おばさん」
「おばさん!?」
「20代から見たら30代なんておばさんだよ。」
まだ28歳だよ、というセリフは寸前で飲み込んだ。