人魚になりたい
『今日は荒れているね』


彼が優しく囁きました。



わたしには近づいてきません。

わたしが荒れているときは、一定の距離を保ってくれるのです。



わたしが気安くテリトリーに入ってこられるのが苦手なのを知っているからです。



「イライラするんです」

珈琲の入ったカップを、ぎゅうっと両手で握りしめました。



『珈琲にミルクを入れるといい、イライラにはカルシウムがいいんじゃなかったかな』



「そんなの迷信ですよ」

わたしは性格がひねくれていることを自覚していますし、それを彼に隠すことはしません。



そんなちいさなこと(こちら側のこと)など彼にとってはとるに足らないことなのです。
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