Daddy Long ....

結局昨日、父は帰ってこなかった。




その日、学校であるプリントが配られた。
この地区で、母子の殺人事件があったというのだ。

つい昨日のことで、皆十分気をつけるようにと先生が言っていた。
私はどこか他人事のような感覚だった。

「配ったプリントはちゃんとお父さんお母さんに渡してね」
ざわざわと騒ぎ立つクラスの視線を集めるために、手を叩いて注意を向ける先生。

「今日は一斉下校とします。班長さんは下級生を迎えに行ってあげてください」


先生の指示で、みんなが動き出した。
私も班長なので、下級生のクラスへと向かい、自分の班員を確認して全員がそろったことを門の前に立っている先生に伝えると、一列になって学校を出た。



昨日買い物をしておいたから、今日は特に買っておくものはない。
家に帰ってまずお風呂の準備をすると、冷蔵庫の材料を探って何を作ろうか考えた。

でも、その前に、少し時間があるからテレビでも見ようか。
気まぐれにそう思って何気なくテレビを点けてみた。

まず画面に映し出されたのは、どこか見慣れた風景だった。

「あ、うちの学校だ」

大分遠くから広い範囲を映しているようだったけれど、そこにあったのは間違いなく私の通う小学校だった。

画面が切り替わって普通の民家が映し出される。
レポーターのお姉さんが難しい顔をして、事の次第を説明していた。

『こちらは被害にあわれた親子の自宅となっております。凶器は傷口の形状から刃渡り20センチほどのナイフで刺されたもので、それによる失血死が原因で亡くなられたとしています』

そこでようやく気付いた。

学校で配られたプリント、あの事件のことだった。

『自宅の廊下前の玄関で母親を刺し、そのまま家の中を物色し、その後子供を殺害して逃走したものと考えられます』

レポーターは家の間取り図のようなものにシールを張って説明している。
先ほどまでは他人事のような感覚だったけれど、話を聞いているうちに知らず震えていた。


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