Daddy Long ....
父だって悲しかった。母が亡くなったことをとても悲しんでいた。
だけど私を育てるため、いつまでも泣いていられなかった。
朝から晩まで働いて、家に帰ってきてからもご飯の支度に洗濯と、まだ幼い私にはなかなか父を助けるだけの力はなかった。
小学校に上がり、来年の春、中学生になる。
私は今小学6年生。
12歳になった。
父と二人で生活し始めてからもう8年経つ。
最初の頃は学校行事があると仕事を休んで必ず出席してくれていた父は、年を重ねるごとに段々来てくれなくなった。
それは別に大したことはなかった。
今まで無理をして仕事を休んでくれていたのだ。
正直さびしかったけれど、私が我儘を言えるような立場でないことは分かっている。
だけどそのうち、父は家の中で私と会話をすることが少なくなっていった。
私が話しかけても無視をしたり、追い払われたりした。
はじめのうちは疲れているから苛々しているだけだと考えていた。
だけど、私以外の人間と接するときと私と接するとき、その違いの大きさを目の当たりにしてから間違っていたことに気付いた。
父の私への関心が薄れていっていることは明白だった。
段々と家に帰る時間が遅くなり、たまに帰ってこないこともあった。
私は一人リビングのソファで毛布にくるまり、父が帰ってくるのを待ってそのまま朝を迎えたことがある。
きっと私がいい子にしていないから、父は怒っているんだと思った。
だから私は毎日学校から帰ると、掃除や洗濯を一生懸命行った。
簡単な料理も作れるようになった。
それでも父の態度は変わらなかった。
そんな日々が続いていたある日、父が仏間で何か独り言をつぶやいているのが聞こえて、私はそっと覗きこんだ。
父は仏壇の前で母の遺影に向かって泣きながら話していた。
『なんで逝っちまったんだよ。俺ぁもう疲れたよ…。子供なんて育てられねぇよ』
父が泣いている姿を久しぶりに見た。
母を亡くしてたあの時から、父の涙を見たことはなかった。
自分が父の重荷になっている。
どうしようもなかった。
少しでも父の力になりたくても、まだ子供の自分に出来ることなんて、何もなかった。