蒼碧
お姉様は、ドンッと私を押しのけて、料亭を出て行かれた。


私は、料亭の前で待っている蔵宇都に会いたくなくて、思わず裏の駐車場へと走り出した。



「……っ、…はぁ……っ」



訳もなく、涙が頬を伝う。


悲しいわけじゃない。


悔しいわけでもない。


この胸の中に広がる痛くてたまらない気持ちを、どう表現したらいいのかなんて知らない。



「……蔵宇都…!」



私の、大切な人。


私の大切なものは、全てお姉様に奪われる。


お父様も、お兄様も、蔵宇都も…。


涙で視界がぶれる。


駐車場の砂利に、ヒールが躓き、膝を着いて転んだ。



「……っく、…うぅ……っ!!」



両手で加減も知らずに、力一杯砂利を握りしめた。
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