蒼碧
「安芸」



そのまま立ち去ろうとする私の腕を総さんが、優しく掴んだ。



「総さん……」


「足から血が出てる」


「………」


「それに、手も酷い」


「………」


「これじゃあ、帰せない理由が出来てしまった」


「……え…?」



ゆっくりと顔を上げると総さんは、月明かりの下、優しく微笑んでいて。


月しか出ていないはずなのに。


おひさまが見えるくらいに、暖かく感じた。



「総さん…」


「あなたを連れて行ってもいいでしょうか」


「………」


「連れ去って、幸せにしたい」


「………」


「安芸」



総さんが呼ぶ、私の名は。


酷く胸が痺れる。
< 85 / 145 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop