なつみかん
こんなところで見つけられるのでしょうか……。
どれだけ走ったか、わからなくなった時、ある香りがしました。
よく慣れた、わたしの好きなその香り。
なつみかん。
誘われるようにそ香りの元に向かって走ります。
そこには、そんなに大きくないなつみかんの木がありました。
木の下には夏樹くんの姿。
似た姿を見たことがありました。
思い出の中に。
「はぁ、はぁ、ここって……」
「そ。にーちゃんが教えてくれた」
わたしの言いたいことがわかったのか、訊く前に答えられました。
やっぱり、と唇だけを動かします。
「この木ってふたりで植えたんだろ?」
「……うん。
久しぶりに来たけど。
ちゃんと、育って、たんだあ」
数は少ないけれど、なつみかんもなっていました。
とても懐かしい。