なつみかん




こんなところで見つけられるのでしょうか……。

どれだけ走ったか、わからなくなった時、ある香りがしました。

よく慣れた、わたしの好きなその香り。





なつみかん。





誘われるようにそ香りの元に向かって走ります。

そこには、そんなに大きくないなつみかんの木がありました。


木の下には夏樹くんの姿。


似た姿を見たことがありました。

思い出の中に。


「はぁ、はぁ、ここって……」

「そ。にーちゃんが教えてくれた」


わたしの言いたいことがわかったのか、訊く前に答えられました。

やっぱり、と唇だけを動かします。


「この木ってふたりで植えたんだろ?」

「……うん。
久しぶりに来たけど。
ちゃんと、育って、たんだあ」


数は少ないけれど、なつみかんもなっていました。

とても懐かしい。






< 20 / 41 >

この作品をシェア

pagetop