Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
滴り落ちる額の汗を拭いながらジルは跳躍した。
蜘蛛の注意はローグが引きつけてくれている。
その隙をついて、ジルは大きな蜘蛛の体を駆け上がった。
蜘蛛の体を蹴って頭部に達すると、蜘蛛はジルを振り落とそうと、大きく体を捻って揺らす。
ジルは振り落とされる寸前に、右手に持ったダガーを振り被って、眉間にグサリと突き立てた。
グエェェエェェェーー
耳障りな呻き声を上げ、蜘蛛が体勢を仰け反らせた。
ブシュッとどす黒い返り血が飛び、ジルの頬を掠めていく。
ジルは不安定な足場から地面に飛び降りてローグの元に寄った。
「そいつ、カチュアを狙ってる」
荒い呼吸で返り血を拭いながら言った。
ローグは「あぁ」と低く返事をすると、ロングソードを持ち替えて左手に焔を出した。
先ほどの火の玉よりも大きく、ローグの掌でゆらゆらと揺らめいている。
ローグは低く構えながら気合を発すると、左手の炎でゆっくりと剣の刃をなぞっていった。
炎は剣の刃を包み、消えることなく燃え上がった。
魔法剣だ。
ローグはその魔法剣を両手持ちし、再度蜘蛛と対峙した。
魔法剣は長くはもたない。
一発で決めなければ。
ローグは暴れ狂う蜘蛛を前に、慎重にその機会を窺った。