Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
自分の命が狙われていた…?
カチュアはただただ驚き、愕然とその場に立ち尽くしていた。
あまりの恐ろしいことに顔面が蒼白になっている。
「この場所へ来ることを知っていたのは、私たち以外にあなたたちだけよね?
そして、私たちが蜘蛛を倒した直後にあなたが現れた…。
これをいったいどう説明するつもり?」
ジルはクリストファーに厳しい視線を向けると語気を強めた。
カチュアを傷つけたくない。
ただの間違いであってほしい。
その思いは胸にあったが、現状の状況で判断すると、クリストファーは限りなく怪しい人物になってくる。
ジルにはその考えを覆すつもりはなかった。
暫くの間、クリストファーは薄い笑みを浮かべたまま沈黙を守っていたのだが、
やがて「ふっ」と顔を伏せて静かに息を漏らした。
それが笑だということが分かるのに数秒かかる。
次第に肩が震えだし、動作が大きくなっていく。
最後には声を上げて高々と笑い出した。
クリストファーの狂気にも満ちた高笑いにカチュアが身を竦ませた。
それを庇うようにしてジルは一歩前に出ると、悔しさを含ませた表情で訊いた。
「な、何がおかしいのっ?」
「君があの魔法陣に気づいたとはね。
それに、まさかあの蜘蛛を撃退してしまうとは予想外だったよ」
掻き揚げた長い前髪から垣間見えたクリストファーの表情は、先ほどの温かい眼差しとはうって変わったものだった。
口角をニヤリと歪ませ、瞳はギラギラとした獣のような光を放ち、とても醜く変貌している。
同一人物とはとても思えないほどだ。
そして、クリストファーは口角を更にいやらしく持ち上げると、こう付け足した。
「そうさ。俺があの化け物を召喚したんだ。
姫の命を奪うためにな」