Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
胸の奥底に稲妻が落ちたような、そんな衝撃にカチュアは駆られた。
クリストファーの言葉が信じられない。
驚きと脅え、そして悲しみの入り混じった瞳でただクリストファーを見据えることしかできない。
何か言いたげだが、薄い紅を差した唇は震えるばかりで、言葉を紡ぐことができなかった。
クリス…。
どうして……。
「姫にはここで死んでもらう」
冷淡な瞳をしたクリストファーは、一歩前に踏み出した。
カチュアを庇い、ジルとローグが立ちはだかる。
どうして…。
カチュアは誰にも聞き取れない小さな声でポツリと呟いた。
その疑問は瞬く間に言葉になってカチュアの口から放たれる。
「どうしてっ?
訳を…、訳を話しなさい。クリスっ!」
感情が露わになったカチュアは、震えながらも叫んだ。
そして、手を振り上げクリストファーに飛びかかろうとするところをジルによって制される。
カチュアの言葉にジルが続いた。
「何の目的があって姫を狙うの!?
国王だってご病気で大変な時期でしょう!
そんな時に……」
そこまで言って、ジルは口を噤んだ。
『国王』。
その言葉が出たとき、クリストファーがふっと力を抜いたような仕種をしたからだ。
「国王、か……」
クリストファーが空を仰ぎながら呟く。
なんだろう、この憐れみを帯びた目は…。
しばしの沈黙。
そしてクリストファーはゆっくりと口を開いた。
「君たちは、まだ国王が本当に病気にかかったと思っているのかい?」