Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
嵐のように巻き起こる突風で目を開けていることができない。
それでもジルは喉の奥から声を絞り出して叫んだ。
「姫の命を狙って、あなたはただではすまないわよ!」
「姫は洗礼の儀式のために国を旅立った。
そこでモンスターに襲われ、命を絶つ。不幸な事故だ。
国民は誰一人とも疑問に思ったりはしないさ」
自国へ戻ったときの架空のストーリーも用意しているのか。
国の主に牙を剥いた本人が自らの立場を守ろうとしている。
その陳腐な考えに、ジルは吐き気を覚えそうなほどの不快を感じた。
「なんて奴なの…」
「なんとでも言うがいい。
邪魔をするなら貴様らも巻き添えにしてやる!」
クリストファーは叫ぶと、両手を天に大きく振り翳した。
その動作が会話の終了を告げている。
そして素早く胸の前で印を切ると、両手を前に突き出した。
「死ねぇぇぇええ!!」
クリストファーの絶叫と同時に、ヒュンと甲高い音が風を切り裂いた。
矢を模った光がカチュアに目掛けて放たれる。
マジックアローだ。
迫る魔法の矢に、カチュアは息を呑んで思わず目を伏せた。