Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
ジルは片膝をついた姿勢で、その焔が迫りくる様を正面から直視した。
とんでもない威力を持った魔法だと察知できる。
避けられない。
盾など持っていない。
腰のダガーなど役に立つはずがない。
焼け石に水だと理解していても、本能的に両手で顔をガードしてしまう。
ジルは焔の龍の直撃を覚悟した。
その時だった。
肩を掴む強い力を感じると、ジルの視界は一瞬にして暗転した。
ローグがジルの肩を抱き寄せ、背中のマントを翻すと、自らとジルの身体を包んだのだ。
直後に焔の龍がローグのマントに直撃した。
直撃の衝撃が二人の身体に強く伝わる。
焔は青白い光を増殖させ、一瞬にしてマントを焼き払った。
更にはその内にいるジルとローグにも迫りくると思われた。
だが、焔は襲い掛からなかった。
ローグのマントを燃やし、そこで勢いをなくしたように消えてしまった。
まるで、マントが自らと引き換えに焔の命を吸い取ってしまったかのように。
「な、なんだと」
これに驚愕したのはクリストファーだ。
まさかという思いでローグを睨む。
「生憎と、特注品でね」
ローグはジルから手を放し、肩に残った燃えカスを地面に投げ捨てると、口角を持ち上げた。
どうやらローグは革アーマーだけでなく、その上を羽織るマントにまで魔法による特殊防御を施していたらしい。