Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
その時だった。
クリストファーの肩越しに見えた光景。
大きく牙を剥いた焔の龍がローグに向けて迫りくる。
ローグを呑み込まんとする焔は更に大きく激しく燃え上がった。
その焔に対してローグは魔法剣を縦に構えると、
「うぉぉぉおおおお〜〜〜!!」
大きく叫び、避けるどころか、焔に向かって剣を突き出した。
その瞬間、ドォーンと大きな爆音を発し、眩しいくらいの閃光が走る。
ジルが光に思わず目を細めたとき、一呼吸間の後に発生した衝撃波がジルとクリストファーを襲った。
激しいほどの衝撃波に身体がいうことを利かず、煽り飛ばされる。
ジルはクリストファーの身体から手を放してしまった。
地面に叩きつけられ、吹き荒ぶ風に両手で顔を覆った。
それでも状況を確認したく、髪を風で煽られながらもジルは顔を上げた。
ジルの目に飛び込んできたもの。
それは、とんでもなく凄まじい、常識を超えたような情景だった。
青白い焔と真っ赤な炎がぶつかり合い、天に高く渦を巻くように火柱を巻き起こす。
森の草花や木々たちは、まるで髪の毛が逆立ったかのように地面から引っ張られた。
上昇気流が一瞬にして気圧の変化をもたらし、火柱を中心に熱を帯びた突風が吹き荒れる。
その火柱の正面に佇んでいるのはローグだ。
焔がその影をくっきりと黒く浮きだたせている。
「ローグーーーーッッ!!」
ジルは喉の奥底から枯れるほどの声を絞り出して叫んだ。
ローグは大丈夫なのか。