Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
その笑みを見たとき、ジルの中で髪の毛が逆立つほどの憎悪が膨れ上がった。
再度クリストファーに殴りかかる。
ジルは抵抗しない相手に向かって拳を繰り出し、滅多打ちにかかった。
何発も顔や腹を殴りつける。
それでもクリストファーは降参の意思を示さない。
ジルは確認すらしなかった。
いや、できなかった。
膨れ上がった怒りが頂点に達し、我を忘れさせているような、そんな感じだ。
サンドバッグ状態でクリストファーを殴り続けるジル。
この男だけは許せない。
怒りのあまりジルは腰に挿したダガーを抜いた。
左腕で相手の喉元を締め上げると、右手に持ったダガーを振り上げた。
「あぁぁ〜〜!」
今まで人を殺めたことはなかった。
だが、この男だけは許せない。
許さない。
この男だけは!!
振り上げたダガーがクリストファーの顔面に向けて下ろされる。
さすがのクリストファーもこのときばかりは目を剥いて歯を食いしばった。
「やめてぇぇえ〜〜〜!」
その時、甲高い悲鳴が響き渡った。
ジルはビクリとし、身体が硬直した。
振り上げたダガーを握る手が止まる。
ハッとして声の聞こえた方を振り返ると、そこに涙を流しながら駆け寄ってくるカチュアの姿が目に入った。
カチュア……?
茫然となったジル。
その隙をついてクリストファーはジルの腕から逃れた。
だが、殴られたダメージが大きく、思うように動けないでいる。
這いずりながらジルから距離を取り、振り返った。