Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
一方、クリストファーはカチュアに対して黙っているはずがなかった。
首に回された腕を乱暴にほどき、カチュアを睨む。
その顔は頬が腫れ上がり、口元には血も滲んでいて痛々しい。
「何のつもりだ!?」
弱々しいその身体を突き飛ばす。
自分はこの女の命を奪おうとしているのだ。
その相手に庇われるとは、滑稽にも程がある。
情けないとはこういうことだ。
「クリス…」
カチュアは倒れた身体を起こし、クリストファーに向き直ると手をついて言った。
「クリス。あなたはこんな人じゃなかったわ。
もっと…、もっと優しい人だった」
クリストファーに語りかけるように、そして昔を思い出して。
そう、自分の知っているクリストファーは、こんな恐ろしい便物ではなかった。
いつも一人でいる自分を気遣い、優しく接してくれる兄のような存在。
それがどうしてこうまで変貌してしまったのか。
「それが、どうして……」
唇を噛み、肩を震わせるカチュア。
その理由がどうしても知りたい。
カチュアの姿はそう語っている。
その姿をクリストファーはただ黙って睨み見ていた。