Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
クリストファーの手がカチュアの首筋に伸びた。
一瞬、怯みを見せたカチュアだが、受け入れるように静かに瞳を閉じる。
首筋にかかった手からクリストファーの体温が伝わる。
そう、これは復讐だ。
この手に力を込めて、この女を殺せばいい。
クリストファーは思った。
だが、思いとは裏腹に手に力が入らない。
カチュアの首にかけた手が震えている。
彼女の毅然とした態度に迷いが生じているのか。
何を躊躇っているのだ。
殺せ。殺すがいい。
そう言い聞かせるのだが、脳裏に無邪気な彼女の笑顔が想起される。
自分に好意を寄せてくれていた彼女の笑顔が……。
迷いを振り切り、ぐっと力を込めようとしたそのとき、クリストファーの手を制すようにスッと手が伸びた。
「もう、やめにしようぜ…」
その静かな声にクリストファーはそちらを見上げた。
声の主はローグだった。
自力で立つことが難しいようで、ジルに身体を支えてもらっている。
ローグはクリストファーの腕をカチュアの首筋からそっと離すと、静かに首を横に振った。
ローグによって制されたクリストファーは、悔しそうに睨み上げていたが、やがて力なく両膝をつくと、諦めたように首をもたげて項垂れた。