Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
カチュアの視線を感じ、クリストファーは気まずそうに俯いている。
乱れた髪の隙間から、腫れた頬や青痣が露わになっている。
カチュアはその頬にそっと指を触れた。
ビクッと反応したクリストファーが振り向き、その指から顔を遠ざける。
軋む痛みに苦痛を感じながらカチュアを見た。
そう、先ほどから身体の関節が軋むように痛む。
強大な魔法の連続使用はご法度だと聞いたことがある。
これはその副作用なのか。
そんなことを考える余裕がある自分になんだか笑えてくる。
「動かないで。怪我をしてるわ」
もう一度カチュアはクリストファーの傷に触れ、白くやわらかな手で彼の頬を包み込んだ。
とても温かい手つきだ。
今度はクリストファーは拒まなかった。
視線をカチュアから外し、下に伏せて足元を見ている。
カチュアはいったい何をする気だろう?
ジルがそう思ったとき、頬を包んだカチュアの両手がぽぅっと白い光を発し出した。
その光は鈍く、決して強くはないが、どことなく温かみを感じる。
ヒールの魔法か。
信じていた者の裏切り…。
我が身の命を狙ったこの男の傷を、カチュアは癒そうというのか。
ジルがそっとローグを見上げると、彼は無言で少し頷いたように見えた。
誰がどう言おうが、カチュアはカチュア自身で気持ちの整理をつけなければならない。