Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
いつの間にか立ち込めていた暗雲はすっかりの姿を変えてしまっていた。
空は快晴に晴れ渡り、心地のよい風が頬を掠めて森の草花を揺らしていく。
先ほどまで嵐のような情景だったとは到底に思えないほどだ。
優しく頬を撫でていく風をクリストファーは感じていた。
風は草花を、そして小枝を揺らし、空へと舞い上がっていった。
今、クリストファーが感じている優しさは風のせいだけではない。
「覚えてる?」
ヒールの魔法を持続させながら、カチュアがそっと呟いた。
「この魔法…。
あなたが教えてくれたのよ」
その言葉に終始無言だったクリストファーは一瞬だけカチュアと目を合わせた。
だが、すぐにまた目線を落とすと、「あぁ」と小さく答える。
幼少の頃から近くに存在し、自分の魔法をカチュアに伝授した。
そして時は過ぎ、自身は国王と姫の暗殺を謀った。
しかし、その暗殺は失敗。
命を奪うどころか、殺そうとした相手から回復魔法を受けている。
なんと無様な姿だろう。