Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
「あなたはこれからイスナに戻って裁きを受けるの。
どんな罰が下ろうとも、甘んじて受けるのよ」
自分が殺そうとはもう思っていない。
しかし、この男がきっちりと制裁を受けるべきだという考えは捨てていなかった。
その思いを込めてジルは言ったのだが、
「君は、何か勘違いをしていないか…?」
クリストファーは空を仰いでいた視線をジルに向けると、穏やかだった眼を鋭く変えて睨んできた。
一瞬だが、冷たい眼光に怯む。
ジルは身を構えた。
初夏の風が二人の間を通り抜ける。
張り詰めた空気を和ませるかのように。
その少し開いた距離が、二人の心中を表しているかのようだ。
「勘違いですって?」
「あぁ。俺は姫を殺すことは叶わなかった。
さっきも言ったが、殺さなくてよかったと本当に思っている。
だがな、国王に対する恨みは消えてなくなったりはしない」
カチュアに対する想いと、国王への憎しみは別だと言うことか。
「それなら、戻って国王を殺すの?
そんなこと許されるはずがない。実行に移す前に処刑されるわよ」
国王の命が危ないと分かった今、イスナ国内では厳重に国王の護衛を強化するだろう。
ましてや、暗殺者の正体が知れているのだ。
この男は処に服すしか道がない。
ジルは強い思いで言い返した。
納得したのかしていないのか、クリストファーは、「そうだな…」と無表情で呟くと、再び歩き始めた。