Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
風は殆どない。
往路のように突風が吹いて橋から放り出されることもないだろう。
今思うと、あの突風もクリストファーの魔法だったのではないだろうか。
「君は…」
一歩前を行くクリストファーが、吊り橋を進みながら口を開いた。
明らかに自分に話しかけている。
顔は見えないが、ジルはそう確信し、クリストファーに首を傾けた。
「君は、俺がイスナで裁きを受けるべきだと言ったよな」
こんな場所で唐突に何だろうか。
確かに自分はそう言った。
だが、先ほどの会話を今再開することの意味は何だろうか。
不信に思い眉をしかめていると、クリストファーは続けた。
「だが、俺は国王を恨んでいる。
姫の判断する裁きならまだしも、あの男の裁きを受けるなど、我慢がならない。
そんなこと、プライドを捨てたって受け入れられない!」
そう言い捨てると、クリストファーはくるりと身を反転させた。
そして勢いをつけてジルに体当たりを仕掛けてくる。