Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
吊り橋という不安定な、しかも人一人が通れるくらいの幅の狭い場所で、クリストファーの咄嗟の行動をジルは躱すことができなかった。
気がついたときには目の前にクリストファーの肩が迫り、顔面に衝撃を感じた。
押し倒されるように突っ伏すと、蔓でできた貧弱な吊り橋は、上下に激しく振れ、足場を大きく揺らした。
前方でローグとカチュアが驚いた声を発するのが聞こえた。
しまった。
油断した。
揺れる吊り橋の上で体勢を起こそうとしたとき、手の中にあった麻縄がスルリと抜けていくのを感じた。
クリストファーが引っ張って身を解放しようとしている。
舌打ちが漏れる。
こうなるなら、両手を後ろ手にきつく縛っておくべきだった。
と、悔やんでももう遅い。
首を動かして状況を確認すると、クリストファーが橋から飛び降りようとしている姿が飛び込んできた。
何をするつもりだ。
まさか、ここから身を投げようとでもいうのか。
ジルは必死で上体を前に、手を伸ばした。
自分も一緒に谷底へ真っ逆さまに堕ちてしまうかもしれない。
そんなことにも構わず、思考が働く前に身体が動いていた。
伸ばした掌が何かを掴むと、反動で吊り橋はまた不規則に揺れた。
「くっ……」
振り落とされないよう、うつ伏せになったままで近くにあった蔓を必死に掴む。
右腕にかかった人物が重力に引っ張られ、ジルの上半身が橋からはみ出る。
引きずり落とされないよう、膝に足首に力を入れて踏ん張った。