Red Hill ~孤独な王女と冒険者~
「ジルっ!」
吊り橋を渡り終えたローグの叫ぶ声が耳に届く。
その声に応える余裕はない。
ジルは右手でかろうじて掴んだクリストファーを睨みつけた。
その先に勢いよく飛沫を巻き上げながら流れていく川も目に入る。
「…は、放せっ」
手首を掴まれたクリストファーがジルを睨み返し、空中でもがいた。
「国王なんかに…、あの男に裁かれるくらいなら……。
俺は、自分で死を選ぶっ」
「勝手なこと言わないでっ!」
暴れるクリストファーに向かってジルは怒鳴りつけた。
それでもクリストファーは必死に抵抗する。
掴まれた腕を放そうともがく。
引き上げるのは困難だ。
「そんなのあなたの自己満足じゃない。
ここで死ぬなんて、勝手すぎる言い分はよして!」
謀反が失敗に終わった末の自殺。
そんな行動を起こすクリストファーに苛立ち、ジルは言葉を投げつけた。
だが、クリストファーは抵抗を弱めない。
ズルリズルリと掴んだ腕が滑っていく。
ジルの身体も谷底へ向けて徐々に引っ張られていく。
踏ん張る力がこれ以上利かない。
クリストファーを掴んだ右腕もだんだんと痺れが強くなってきた。
力に耐え切れなくなった踏み板がミシリと亀裂の入る音を発する。
このままでは、堕ちる。